法人と個人、どちらにメリットがある?#1
法人のデメリット
美容室の経営者が、個人事業から法人化するケースはたくさんあります。法人には前述した、消費税、赤字額の繰越金控除、所得の分散、事業主の退職金、生命保険料、税率などのメリットがあります。
しかしその一方で、デメリットもあります。たとえば、会社設立のためにさらに費用がかかること。赤字の年度であっても税金などを支払わなければならないことです。次に、詳しく説明しましょう。
社会保険
一般的に社会保険とは、国民の生活を保障するために設けられた公的な保険制度です。健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険で構成されています。
法人の場合、従業員数に関係なく、社会保険への加入が義務付けられています。そして事業主は従業員の社会保険料の半分を負担しなければなりません。
健康保険
ケガや病気、出産、死亡への保障をする医療保険の1つで、会社勤めの人が加入するものです。
厚生年金保険
老後の生活や死亡に備えるための保障制度です。積み立てた金額に応じた年金を、老後に受け取ることができます。
介護保険
40歳以上に加入が義務づけられている公的な社会保険制度で、対象となる人に介護サービスを行います。
雇用保険
安定した雇用や就業の促進を目的とする保険制度です。代表的な給付には、「求職者給付」(失業保険)があります。
労災保険(労働者災害補償保険)
仕事中や通勤中に起きた事故や災害が原因とされる病気・ケガ・障害・死亡などに対して保障を行う保険制度です。
一般的に個人事業の場合でも、常時5人以上の従業員が働いているのであれば社会保険への加入が義務となりますが、美容室は「非強制適用」の事業に分類されています。このため、従業員が5人以上、たとえば10人、20人いたとしても、個人事業の美容室では社会保険の加入義務はありません。
接待交際費
資本金が1億円以下の中小企業の場合、交際費を1事業年度で最大800万円まで経費にすることができます。ただし飲食に要する費用の50%を経費とし、それ以外は経費とはなりません。
ところが個人事業では、接待交際費に上限がありません。800万円を超えてた額でも、損金にできるのです。美容室でこのような多額の接待交際費を使うことはないかもしれません。しかし接待交際費に限らず、個人事業では様々なものを経費にしやすい傾向があります。
住民税
法人は、会社を登記している都道府県、市区町村に法人住民税を納めなければなりません。個人事業の住民税と比較すると、かなり割高となっています。
法人税は約17%、均等割は一律5万円です。一方、個人事業の住民税では、所得割は所得の10%、均等割は約5,000円が標準として定められています。
申告提出書類
法人は、決算申告を行わなければなりません。それにはたくさんの書類を制作する必要があります。決算資料は、決算や法人税申告に使い、法的に保存期間が定められています。
次に示すのは、所轄の税務署に提出する書類の一例です。
法人税
- 法人税申告書および地方法人税申告書
- 適用額明細書
- 法人事業概況説明書、または会社事業概況書
- 勘定科目内訳明細書
- 決算報告書
消費税
- 消費税及び地方消費税の確定申告書
- 消費税の還付申告に関する明細書
次に示すのは、都道府県の税事務所に提出する書類の一例です。
地方税
- 法人事業税・地方法人特別税・法人都道府県民税の申告書
- 法人市町村民税の申告書
設立費用
株式会社を設立するには、次の費用がかかります。
資本金
現物出資を利用して現金を0にすることもできます。上限はありませんが、消費税の免税業者になるには1,000万円未満にしておく必要があります。
法定費用
登録免許税や手数料などで、内訳は次のようになります。定款は、電子認証にすると4万円の印紙代が必要なくなります。つまり、定款を紙にするとさらに4万円以上の費用がかかるようになります。
- 定款認証の手数料 5万円
- 定款の謄本 300円保存料
- 登録免許税 150,000円
税務調査
国税庁が管轄する税務署などの組織が、納税者が正しく税務申告しているかを確認するために調査することがあります。脱税の疑いなどがなければ基本的には任意調査となります。事前に調査に赴く旨の連絡が会社にあります。
一般的に税務調査は、黒字の会社、消費税の還付を受けた会社、売上や利益が急激に増加している会社などに入りやすいと言われているのですが、はっきりしたことはわかりません。
個人事業で必要なこと
多くの人は、いきなり法人で美容室を開くのではなく、個人事業からスタートすることでしょう。それには、いくつかの書類や手続きが必要となります。
個人事業の開業届
個人事業を開業するのにまず必要なのが、開業届です。開業届は正しくは「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」と呼ばれるもので、納税地を所轄する税務署長に提出することが義務付けられています。
申込書式は、下記のURLからダウンロードできます。
青色申告の承認申請書
青色申告することを税務署に承認してもらうための書類です。これを申告しないと、青色申告できません。白色申告に比べると青色申告の手続きは面倒になるのですが、大きな節税ができます。
青色申告の承認申請書は、下記のURLからダウンロードできます。
次回は、「法人と個人、どちらにメリットある?#2」について解説します。
この記事は、2018年12月に執筆されました。記事中の情報は、現時点のものです。