法人と個人、どちらにメリットがある?#1
法人のメリット
美容室の多くは個人から出発し、条件が整うと法人化します。では、法人のメリットは何でしょうか。「法人は個人に比べて信用がある」とよく言われていますが、美容室の場合、取引先は一般のお客様で、仕入れ先のほんどのは美容ディーラーです。つまり、美容室の社会的信用は、法人でも個人事業でも違いはないのです。
ほかの側面から法人のメリットを考えてみましょう。
消費税
売上が1,000万円を超えるころになると、美容室の個人業主の多くは法人化を考えるようになります。それには、次のような理由があります。
消費税は、法人、個人事業のいずれも、免税事業者以外は納税しなければなりません。その課税期間の「基準期間」の課税売上高が1,000万円以下であった場合は、免税事業者となり、消費税の納税の義務が免除されます。
基準期間とは、個人事業の場合は前々年、つまり2年前です。法人の場合は、原則としてはその事業年度の前々事業年度となりますが、前々事業年度が設立年度であったときや、決算期の変更などにより1年未満の場合には特例として「その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間」となります。
一般的に美容室の法人化は、一度個人事業主を廃業してから会社を設立するという流れになります。こうして新しく設立した会社は、資本金が1,000万円を超えていなければ、2年間消費税を支払わずに済むのです。
消費税の免税期間を考えると、個人事業でスタートし、後の法人化するのがよいでしょう。
赤字額の繰越金控除
繰越金控除とは、赤字を翌年度以降の節税に活用できるという制度です。法人の場合は、欠損金額については9年間、繰り越すことができます。平成30年4月1日以降に開始する事業年度については、10年間繰り越すことができます。ただし、青色申告法人に限られます。ちなみに、平成20年4月1日以降に終了した事業年度から平成30年3月31日までに開始した事業年度における欠損金額については、9年間の繰り越しでした。
個人事業でも、青色申告であれば経営が赤字になると、その赤字を翌年以降3年間に、繰り越すことができます。ただし白色申告の場合は、繰り越せません。また、個人事業で発生した赤字を残したまま法人化しても、この赤字を法人には引き継ぐことはできないので、注意が必要です。
所得の分散
所得の分散は、法人化の最大のメリットです。所得税は所得が大きいほど税率が上がる仕組みになっています。たとえば、一つの家族を考えた場合、夫一人で所得1,000万円を稼ぐよりも、夫の所得が700万円で妻の所得が300万円の方がそれぞれの税率が下がり、課税される税金が少なくなるのです。
新しく会社を設立すると、役員報酬を法人の必要経費とすることができます。つまり、役員個人の所得レベルを考えながら、所得を分散できるのです。さらに給与所得控除も受けることができます。
法人の場合、役員でなくても、役員の家族が仕事を手伝ってくれたときに、給与を支払うことができます。事前届出などの制限もないため、役員以外の家族に所得を分散することで、簡単に節税ができるのです。
事業主の退職金
法人では、役員退職金を経営者が自分自身に支給できます。退職金には、税金が安いというメリットがあります。また家族従業員に退職金を支給し、これを損金にすることができます。
次に、小規模企業共済と特定退職金共済に言及しておきます。
小規模企業共済とは、常時従業員を20名以下雇用している個人事業主や、会社の役員などが加入できる制度です。毎月1,000円から7,000円を積み立て、廃業時などに受け取ることができます。満期にならなくても、途中で減額、増額、あるいは前払いできます。
小規模企業共済とは(中小機構)
生命保険料
生命保険を法人契約する場合、会社が契約者となって保険料を負担し、経営者または社員が保障の対象となります。法人で生命保険に加入する本来の目的は、経営者または社員の保障ですが、保険料の全部または一部が損金として算入できるというメリットがあります。
税率
法人と個人事業では、税金の種類が変わります。個人事業が納める税金は、所得税、個人事業税、住民税です。また美容室の内装など、所有する固定資産に対して償却資産税などの税金がかかります。一方、法人の場合は、法人税、復興特別法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人特別税などの税金がかかります。
個人事業の所得税の税率は、5%から45%です。一方、法人税は15%から23.9%。基本的に、売り上げが大きくなるほど法人の方が節税になると考えられています。
たとえば、1,000万円の売り上げがあった場合、青色申告の個人事業だと所得税は約146万円となります。法人の場合は、役員報酬を1,000万円として法人の利益は0円にしたとします。役員報酬の源泉所得税を109万円支払うことになったとしても、税金は120万円以下にすることができます。
次回も引き続き、「法人と個人、どちらにメリットがある?#1」について解説します。
この記事は、2018年12月に執筆されました。記事中の情報は、現時点のものです。